もういいよそれ持ってけよ それは君のもんだ


ポップ・ミュージックは元々「Don't trust over 30」なユース・カルチャーなわけで。10代20代の若者が主役だ。
その彼らがなぜCDを買わなくなったか。
それを、ひと月前くらいに「関係性」をキーワードにちょっと考えてみたのだけど。
でも↓を読んで、もっとずっと直球で、当たり前にストンと理解が出来た気がする。


世界大恐慌とか雑感
http://fladdict.net/blog/2008/01/post_130.html


とりあえず、わっかりやすい所だけ抜き出してみる。以下<>内は引用。
曰く、世界経済終了すると
<庶民の消費が冷え込めば冷え込むほど、携帯とかインターネッツの利用頻度・滞在時間は(おそらく)上昇>
そして
<コンテンツ制作コストを下げてお前等自分でコンテンツ勝手に作って勝手に遊べや、儲かりそうなら吸い上げて使ってやっからな的なCGMコンテンツへの注力が更に激化>
でもって
<長期的には、インターネッツ低所得者層のものってことになっていくんじゃないかと。貧乏が予想外に脱物質化社会を実現>


この筆者はインターネット業界におけるコンテンツの在り方とかアート性とかデザイン性を念頭に書いてるんだけど、こうやって読むと「あ、音楽も」って普通に思うわけです。
<貧乏故に無駄に対してリソースを配分する余裕がないので、即物性のある情報ばかりを求めアート性には金銭を払わない>なんて一文は、まさに。


若者っていうのは常に貧乏なもの。でももしかしたら10年20年前の若者より今の若者の方がもっと貧乏なのかもなあ、というのはなんとなく感じてはいたことだ。物価上がってるのにバイトの時給って僕が学生だった頃からかわってないもんな。
そしてこれからさらにどんどんみんな貧しくなっていくとしたら。
ユーザーがコンテンツを無償で手に入れたいと思うのも、まあ当然だよね。


でも、実はそれで逆に元気が出た。というか吹っ切れた。というか自棄か。でもないけど。
コンテンツは無料。音楽は無料。それでいいや。
どうせその流れには抗えないっていうのもあるけど、でも実際、試聴機で何枚も何枚も聴いて長い時間かけて吟味して手に持ったCDの中から悩みながら選んでる若者の姿を見ると、もういいよそれ持ってけよ、って思っちゃうもん。それは君のもんだ、って。
そうやってレーベルは外れて、アーティストとユーザーとが直に繋がる。というかユーザーとアーティストが同列で入れ替え可能な関係になる。
アーティストはお金を稼げない。ポップ・ミュージックは意味をなさなくなる。「それぞれがそれぞれにどうぞご自由にご勝手に楽しむ」って状況が進む。自由だ。でもみんなバラバラ――
でも、そこに何か、ひとつのきっかけや媒介するものがあれば、もしかしたら、また新しい何かが生まれるかもしれない。


音楽に限らず、文化は虐げられる側から生まれてきた。
貧乏人。下層階級。アウトロー。被差別者。異邦人。そして若者。
そしてもうひとつ。
新しいものは「ユーザーとアーティストが同列で入れ替え可能」なところから生まれてきた。
パンクもヒップホップもジャズもロックも。全部そう。


「それぞれがそれぞれにどうぞご自由にご勝手に楽しむ」って状況を超える、新しく大きなうねりが生まれるかどうか。
<自由意志で遊んでるつもりが、コンテンツ生産電池の一部として扱われる状況>から、それ自体を打倒するような新しい文化が生まれるかどうか。
分からないけど、そう信じたい。
僕らが経験できなかった60年代70年代のように何かが生まれるといいな。とそう夢想する。


クラブやライヴハウスといった現場は、これから面白くなるはず。きっと。
実際、都内でハコの数はまた少しずつ増え始めている。
渋谷を追い出された若者たちはどこへ行くんだろ?
どこかに新しい若者の街が出来るかもしれない。
そして、そこに新しい宇田川町が出来るかもしれない。


現場はこれからの若者に任せるとして、オーバー30になっちゃった人間としては、ネットにもっとインディペンデントなプラットフォームがあってもいいと思う。
大企業とかIT屋さんが作るのとは違う、音楽とユーザーの媒介。
音楽を売るのではなく作るのでもなく紹介するのでもなく、もっと本当の裏方として、そういうものを何か作れないかな、と。
どうせならそれをちょっと考えてみようと思う。



(追記)
ちなみに。
ポジティヴだから良いとかネガディヴだから悪いとか、そういう価値感はもってないので、アレなんだけど。
でも、これがポジティヴだといわれると、それはそれで微妙だなあ。
実際のところ、状況認識は変わってないどころかもっと厳しく受け止めざるを得ないし。
年末商戦から引き続き、今年に入って市況はさらに悪くなっている。
オリコン史上最悪の1週間、トップ20は2位以外全て歴代最低売上枚数」なんてのもあった。レコ屋さんのセールも続いてるし。
まあ、納得というか了解というか。ある種の諦念の域に達したっことかもしれない。