「CD売れない」「音楽は斜陽だ」の次にそろそろ言うべきこと。


音楽業界は斜陽産業だ。もう10年も前から傾き始めてる。
今さら鬼の首をとったように叫ぶ話じゃない。


いまやレコード会社に正社員を雇う余裕なんてない。
正社員を募集しているなんて、まれだ。
大抵が契約社員何年も前からそうだ。
まったく潰れる気配のなさそうなメジャーなレコ社、いくつある?


レコ屋の店員の給料がどれくらいか、わかるだろうか?
彼らはそれでどれだけ働かされてるか。
まったく悲惨な奴隷的な労働環境。
なのに、それだけ働いても、多くのレコ屋店員がバイトを掛け持ちしなくちゃ食っていけない。


音楽だけじゃない。
出版業界だって一緒だ。
一部の大手版元をのぞけば、編集者やライターなんてみんな奴隷だ。
編プロで雑魚寝してる若者達も、あと数年で使い捨てられる。


出版だけじゃない。
ゲーム業界やアニメ業界も一緒。
業界への憧憬を餌に、若者をどんどん使い潰していっているんだ。
貴重な20代を食いつぶして疲れ果てた人々が次々に去っていく。
まるで大昔の炭鉱労働者たちを見てるようだ。


流通小売業界はずっと斜陽だ。
音楽、雑誌、書籍、ゲーム、新聞、家電、クルマ。モノが売れないから。
当然の話だ。
購買層の人口が減っている。一方で消費の選択肢を増えている。
財布の中身は変わらない、もしくは減っているのに、商品はどんどん目の前に積まれていく。
音楽で言えば、1年間に日本でリリースされるCDのタイトル数は、アメリカのそれよりも多い、と言われている。
縮小しつつあるマーケットに供給過多。
モノが売れないのも当然だ。CDも当然売れない。


音楽に話を戻そう。
ダウンロードを違法化すれば、それでCDが売れるようになると考えるのは、当たり前だが間違いだ。
ナップスターを閉じさせ、mxを閉じさせ、winnyを取り締まったって、CDの売り上げはかわらない。
なぜなら、そこでファイルを落としているのは、CDを買ってくれる客ではないからだ。
「買わない。でも落ちてるなら拾う」
そんなライトユーザーだ。
winnyも音楽にとってもはや脅威ではない。
たとえば、バーチャル・シンガーが脅威でないのと同じように。
ソフトに歌わせた歌で満足できる層が、音楽業界の客であるはずがない。
無論、粗製乱造漂白ポップスでそんなライトユーザーを取り込み、大きく成長したのが90年代の音楽産業だった。
メジャーレコード会社にとって、かつてのお得意様がいまの仮想敵だ。
皮肉だが、大して笑えない。


CCCDや輸入盤規制も、そんなライトユーザーが手軽に使う蛇口を規制しようとした試みだった。
だが、その意図と反して、ヘビーユーザーから激烈な反発を食らうことになった。
かつてのお客さんを振り向かせようとして、普遍的なコア層のお客さんを怒らせた。その結果は周知のとおり。
蛇口を破壊したからって、水道水に大金は払わない。
そして、今度は、蛇口をひねる行為自体を違法化しようとしているだけだ。


「音楽業界は斜陽産業」だ。
そんなことみんな知ってる。ずっと前から。
そして、だから、多少でも危機感のある音楽業界の人間はみんな、あがいている。
コストを切り詰め、怒り、嘆き、CDが売れないのを何かのせいにし、間違った敵を見つけ、誤った施策を打つ。
彼らが見ている海図は10年も前のものだ。
宣伝と言えば、相変わらず顔の見えないマスに向けて闇雲に乱射している。彼らの客はもうそこにいないのに。
いや、本当はそんなこと百も承知かもしれない。でも、とりあえず何かやらなければいけないのだ。
だって会社が潰れそうなのだから。


そろそろ新しい海図を作ろう。
もうここらで現実を認めるべきだろう。
昨日までの夢は忘れよう。
「CDが売れない」と嘆くA&Rは、大抵、その商品の売り上げの期待値が間違っているのだ。
予想が外れるのなら、間違えているの予想の方だ。現実の方ではない。
「こんなにいい商品だから売れる」「これだけ宣伝したのだから売れる」と信じる前に、それが本当に正しいのか検証すべきだ。
そして、その上で、その商品の正しい価値とそれに見合ったコストをシビアに客観的に算出する。
ビジネスとして音楽に関わる以上、ビジネスとして成り立つ最低限のプランを立てる。
それが出来ないのなら、あくまで休日の趣味にするしかない。


愛だとか夢だとか、そんなもので勝負できるほど、甘い状況ではない。
音楽への愛は、よい商品を粘り強く作り続ける情熱の源泉とすればよい。
もう一度。「音楽業界は斜陽産業」だ。
傾いた陽は容易には昇らない。
だが、その赤い夕陽が美しく希望に溢れて見えることもある。
昨日を振り返るのではなく、そこに明日を見るのであれば。