「新兵、補充兵」「兵士を採用する」


http://d.hatena.ne.jp/iammg/20080730/1217359666


 そういえば夏頃になるといろいろ悩み出すもんだな、と懐かしく思い出した。何がエリートで何が馬鹿かにはあまり興味がないのだけど、でも読んでいてちょっと思ったりすることはあった。


 「社会人」である以上、文字通り、ひとりで生活するわけではない。就職すれば、その所属集団の最大利益を追求するのが彼/彼女の使命となる。集団でひとつの具体的な目標に取り組むためには、当然、コミュニケーションが必要だ。というか、コミュニケーションとれないやつが集団の中で働けるかヴォケというわけだ。
 コミュニケーション能力といっても別に「誰とでも5分ですぐに打ち解け仲良くなれる」とか「リアル友でマイミク100人」とかいうレベルが求められてるわけではないだろう。言いたいこと/言うべきことを適切なタイミングで適切に伝えられ、同様に相手の言いたいことを適切に理解できればいいわけだ。要は普通に会話できればいい(学校が集団生活なのはその訓練でしょ)。普通に話せれば、そのうち経験値を積み、人脈も広がり、やがてコミュニケーション強者にレベルアップできるかもしれない。が、新卒にそれが求められるわけではない。
 学歴とは関係なく、まず普通にコミュニケーション取れる、それが社会人になる大前提だ。ゲームへの出場資格の必須要件。だから京大だろうが東大だろうが高卒だろうが中卒だろうが、コミュニケーションもまともに取れないやつはそもそも社会人として社会生活を営む準備が出来ていない、とみなされる。ゲームにエントリーできないのだ。そういう意味で、元記事の「学歴とコミュニケーション能力の有無」云々なんつーのは、次元の異なる二つの要素を並べて語ってる時点でナンセンスだろう。


 非コミュの苦しみなり悩みなりというのは、それでそれで重いのだとは思う。他のみんなが当たり前にしていることがどうしても出来ないわけで、それは本人のせいではないのかもしれないし、「がんばれ」とか「努力しろ」とかいう類の話でもないだろう。でもだからと言って「俺のせいではないのだから雇え」と強要できるものではない。結局の所、企業はリハビリ施設でも学校でもないし、お友達でも家族でもない。この社会は驚くほど冷淡で不条理だ。誰も助けてくれないし、関心すら持ってくれない。
 もちろんコミュニケーションを取れることを構成員の前提とするこの社会自体を否定するっていう手もあるが、じゃあ政治家や革命家にでもなるかしかない。そうではなくて、少なくとも就職しようって言うのなら、まずこの社会自体を受け入れなければいけない。社会の内に安穏としていながら社会を否定するなんて駄々っ子の甘えと言われてもしょうがないだろう。
 まあつまり「このままの自分をそのまま受け入れて」などと社会に求めること自体見当違いで、社会にそんな義理はない。というか、そんなプレイは家でやれ、ということ。いや、実際、皮肉でもなんでもなく、それは家でやるべきことだと思う。家族に愚痴言ったり、奥さんにダメな自分を見せて甘えてみたり、彼氏に「愛してる」と言わせてみたり(犬でも猫でも脳内彼女でも)。社会にそれを求めるのは筋違いだ。


 あと、けものみちでもなんでもいいけど、仕事と自己実現はきっちりわけたほうがいいと思った。自分は(普段それを意識したことはないけど)いわゆるロスジェネ世代ど真ん中で、まともに一般企業には就職もせずに(幸運にも)好きなことばかりして生活してきたが、決して平坦な社会人人生を歩んできたわけではない。ロスジェネ世代らしいドロップアウトをしたのだと思う。当時は就職しなくても今ほど切迫した雰囲気はなかったし、自分もそんなに深刻には考えていなかった。周りにもそんなやつは大勢いたし。で、今、振り返って当時の自分に一言言ってやるとしたら、「仕事と自己実現は区別したほうがいいよ」ってことだ。会社っていうのは利益追求をする場所で、個人が自己実現や存在証明と求める場所ではない。ライスワークはライスワークとしてきっちり分ける。いろんな人を見てきたけれど、その割り切りが出来てるやつほど、社会人として、強い。挫折しない。使いやすい。
 ちなみに、recruitを辞書で引いてみると、まずこう書いてある。「新兵、補充兵」「兵士を採用する」。ランボーみたいに戦場にいることが存在証明になるなら最強だが、そういう猛者でないのならせめて人を撃ったとか誰かが死んだとか何が正義?とか私は何者?とか悩みだしたりするな、と。自分の人格と仕事は分けて、一兵卒として淡々と任務をこなせ。そのかわり、自分が名前のない、代わりのきく兵隊では「ない」場所を、別に用意しておけばいい。家庭を作ったり趣味を持つのでもいいし、それこそブログを書くでもいい。そうやってみんな戦場でサヴァイヴしてるのだよ。とあの頃の自分には教えてあげたい。
 ま、言われても聞かなかっただろうけど。